2016-01-31

ヴェルディ 「レクイエム」

前回の第26回市民コンサート(2014年12月開催)でのモーツァルト作曲の「レクイエム K626 ニ短調」に引き続いて、今回の市民コンサートではヴェルディ作曲の「レクイエム(Messa Da Requiem)」を取り上げることにしました。フォーレ作曲の「レクイエム ニ短調 作品48」を加えて「三大レクイエム」と呼ばれていますが、その中でも本作はオペラを中心に作曲してきたヴェルディならではのドラマチックな楽曲という特徴から、現在も映画やテレビなどでさまざまな場面に利用されています。

「レクイエム」は、ローマ・カソリック教会において死者の安息を神に祈るための儀式「死者のためのミサ」の式次第の俗称です。 ミサの最初の言葉が"Requiem"で始まり死者の安息を主に願う"dona eis requiem"という祈りの文句が随所に現れることから、そのミサで演奏するミサ曲のことも「レクイエム」と呼ばれるようになりました。

さまざまな作曲家が、この典礼テキストをもとにした楽曲を作ってきましたが、時を経るとともに当初の成り立ちであるローマ・カソリック教会の典礼音楽から、演奏音楽として宗教を越えた祈りの楽曲へと姿を変えてきています。

18世紀までの「レクイエム」は主に王侯や貴族の葬儀・追悼のミサ用に遺族の依頼によって作曲されたものが大半でしたが、19世紀になって作曲家自らの葬儀のためや、尊敬する知人の死、世の中の悲しい出来事への哀悼の意を表す手段として「レクイエム」という名の楽曲が世に出されるようになってきました。

ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)作曲の「レクイエム」は、ヴェルディが「イタリアの栄光」と呼び尊敬していた人物でイタリア統一運動の推進者でもあった、文筆家のアレッサンドロ・マンゾーニ (1785-1873) の死を追悼するために、ヴェルディ発起人となって演奏家の手配、会場の選定まで自らが行って一周忌の追悼ミサで演奏するために作曲をしました。

この曲が作曲される約5年前に、ヴェルディがマンゾーニと同様に「イタリアの栄光」と呼び尊敬していたイタリアオペラ界の大作曲家のジョアッキーノ・ロッシーニ (1792-1868) が亡くなったときにも、ヴェルディが発起人となり、当時のイタリアの高名な作曲家13人を集めてロッシーニを追悼する「レクイエム」を合作するというプロジェクトを立ち上げました。曲は完成したものの、出来上がった楽曲「ロッシーニのためのレクイエム (Messa per Rossini)」は、さまざまな理由が原因となって演奏される機会もなくお蔵入りとなりました。

そのため、マンゾーニの追悼に際しては、ヴェルディは作曲だけでなく追悼ミサの準備もできる限り一人でおこない、無事にマンゾーニの一周忌にあたる1874年5月22日にミラノのサン・マルコ教会の追悼ミサにおいてヴェルディ自身の指揮によって「レクイエム」の初演がおこなわれました。 本日の演奏会のチラシやプログラムに印刷されている建築物がそのサン・マルコ教会です。追悼ミサでの初演直後から同年の6月末までの間にミラノのスカラ座で3回、パリで9回の演奏会が成功裏におこなわれました。

ヴェルディの「レクイエム」は、"Requiem", "Dies Irae","Offertorium", "Sanctus", "Agnus Dei", "Lux Aeterna", "Libera me" の全7曲から構成されていますが、終曲の"Libera me"は、お蔵入りとなった「ロッシーニのためのレクイエム」でヴェルディが担当した"Libera me"の楽曲が、細かな手直しはされているものの、大枠はそのままの形で使われています。この15分足らずの"Libera me"の中には、"Requiem", "Dies Irae"と共通するモチーフが含まれているため、この「レクイエム」の根幹を成す部分については、「ロッシーニのためのレクイエム」作曲の段階で自身が全曲を作曲する場合のイメージがあったのかもしれません。

「アイーダ」「オテロ」「椿姫」「リゴレット」などの代表作をあわせて26ものオペラを作曲し、イタリアオペラの頂点を築いたヴェルディが、宗教曲である「レクイエム」を作曲したことについて、ヴェルディ自身は「この曲はオペラと同じように歌ってはいけない」との言葉を遺しているにもかかわらず、曲が発表された当時から「宗教曲としてはあまりにもドラマチックすぎる」という評価や批判が相次いだといわれています。確かに"Dies Irae"の迫力溢れる合唱や、まるでオペラのアリアのようなソロ、劇場音楽を数多く世に出してきたヴェルディならではの表現が随所に現れます。しかしながら、決して典礼テキストを逸脱することなく、本来の目的であった故人への追悼に対するヴェルディの自発的な気持ちと、テキストに書かれた各場面を克明に描写する天才的な表現力とが余すことなく発揮されたこの作品は、まさにヴェルディにしか作りえない素晴らしい「レクイエム」だといえます。

(nobunobuta)


(2016年1月31日 第27回松戸市民コンサート @ 森のホール21 プログラム曲目解説として作成)

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