草野心平は「蛙の詩人」と呼ばれることがあるほど、蛙をテーマとした詩を数多く発表していることで知られていますが、山や海を取り上げた詩作も多く、特に富士山に対しては40篇以上の詩を残しています。1973年に「草野心平全集」の一部として、26篇が連作詩集「富士山」にまとめられ出版されました。
この詩集「富士山」中の5篇を無伴奏の男声合唱曲として発表したのが、多田武彦です。旧制大阪高等学校・京都大学で男声合唱団を中心とした合唱音楽に傾倒した多田武彦は、卒業し企業にて勤務する傍ら、作曲家清水脩氏の薫陶を受けながら男声合唱曲の作品を数多く発表しています。
男声合唱組曲「富士山」は、多田武彦にとって、デビュー作「柳河風俗詩」に続く2つめの作品で、師である清水脩氏から「前作は歌い手の声域を気にしすぎている。男声合唱曲はもっとスケールの大きなダイナミックなものに」とのアドバイスをうけて作られたと作曲者自身が語っています。
世界的にも文化遺産として認められた富士山だからこそ、そのさまざまな情景をそれぞれの詩として繊細かつダイナミックに描くことができるのでしょう。
・作品第壹 ( = 作品第一)
広大な裾野の山麓に花々は咲き乱れ、鳥や獣や人が舞い踊る宴を夢みる。
・作品第肆( = 作品第四)
春の河原で、のどかな情景を物憂く眺めていると、草花で少女たちが作った大縄跳び。輪が揺れるたびに近づいては遠ざかる風景。
・作品第拾陸( = 作品第十六)
牛久(茨城県)の夕暮れに山なみを見渡せば、一段高い黒いシルエット。
・作品第拾捌( = 作品第十八)
紅色に燃えているような豊旗雲(とよはたぐも)の下には黄銅色の大存在。
・作品第貮拾壹( = 作品第二十一)
重たい雨雲に閉ざされた平野、その絶端にいきなり現れる、夕映えの姿。
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(2014年11月 大阪男声・外大OBジョイントコンサート プログラムの曲目解説原稿)
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