2023-07-17

男声合唱のための唱歌メドレー「ふるさとの四季」

 男声合唱のための唱歌メドレー「ふるさとの四季」は、主として「文部省唱歌」と総称されている、小学校の音楽教科書に長らく掲載され続けてきた日本歌曲の中から、作曲家源田俊一郎が日本の四季折々の風景が描かれている曲を選び、それぞれの曲に描がれている季節の流れに合わせてメドレー曲として綴った合唱曲です。

この合唱曲に収録されている各曲それぞれは、聴き馴染みのある曲ばかりで、特段の解説は必要ないと思いますので、ただただ懐かしい想いとともに楽しんでいただければと思います。

本解説の残り紙面は、そもそも「文部省唱歌って?」という疑問に対する、豆知識に近いお話で埋めさせていただきます。

現在のNHKの連続テレビ小説「らんまん」の舞台ともなっている明治維新後の日本は、西洋からの学問・文化を積極的に取り入れた時代で、近代教育が始まった時代でもありました。音楽の初等教育については、学制が発布された明治5年(1872年)時点では「当分之を欠く」との記載のみで、主要教科に比べるとスローなスタートとなりましたが、明治12年(1879年)には海外の音楽教育視察や留学から帰国した人々によって文部省内に「音楽取調掛」が設置され、その取り組みの中で明治14年(1881年)には「小学唱歌集」が発行され、「蝶々」「蛍」(蛍の光)などの楽曲が掲載されました。しかしながらこれらの曲は基本的には西洋の楽曲に日本語の歌詞を合わせた歌曲、教えられる人材も乏しく教育の場に根付くには至りませんでした。その約10年後の明治25年(1892年)には、小学校で祝日大祭日儀式に用いるべき唱歌数曲が選ばれて布告されるなどの取り組みで徐々に普及が図られていたようです。

小学校での唱歌教育が必須科目となったのは明治40年(1907年)、教員の採用においても唱歌・楽器使用法の試験がなされるようになりました。その3年後の明治43年(1910年)には、「尋常小学校読本唱歌」が初の国定教科書として文部省から発行され、すべての唱歌が邦人による作曲となりました。本日演奏する曲のなかでは「われは海の子」がこの「読本唱歌」に収録されています。

翌年の明治44年(1911年)から大正3年(1914年)にかけて、尋常小学校の各学年向けの唱歌集として「尋常小学唱歌」が「第一学年用」~「第六学年用」の分冊で順次発行され、これが小学校の音楽教科書のスタイルとして定着することとなります。

本日演奏する曲目はそれぞれ学年用の唱歌集に掲載されています。

  • 第二学年用 : 「紅葉」「雪」
  • 第三学年用 : 「茶摘み」「村祭」
  • 第四学年用 : 「春の小川」
  • 第五学年用 : 「鯉のぼり」「冬景色」
  • 第六学年用 : 「故郷」「朧月夜」「われは海の子」

これらの、国定教科書に掲載された唱歌は、作詞・作曲者名は教科書には明記されず、一般的には作者不詳の「文部省唱歌」と括られていました。現在は、その後に作者が判明した楽曲については、その作者を明記することが一般的となっています。「夏は来ぬ」についてはこの「文部省唱歌」の範疇には入らず、明治29年(1896年)に民間から出版された「新編教育唱歌集(第五集)」に収録されています。

「春の小川に」ついては、当初の発行された教科書の歌詞は現在のものとは異なり文語体で『春の小川は さらさら流る・・』のような歌詞でした。昭和17年(1942年)にこの曲を小学三年生用の教科書に掲載替えすることになった際に、低学年用の唱歌の歌詞は平易な口語体でという要領に従って歌詞が改められ、もともと3番まであった歌詞も2番までとなり、昭和22年(1947年)にも若干の微修正がされたものが現在の歌詞となっています。

なお、本豆知識については、私の小学校から高等学校の音楽教科の恩師で個人的にもお世話になっていた、大阪教育大学名誉教授の松村直行先生の著作「童謡・唱歌でたどる音楽教科書のあゆみ(和泉書院)」を参考文献とさせていただきました。
------------------------------------------------------------------------------------
(2023年7月 大阪男声合唱団第22回定期演奏会 プログラムの曲目解説原稿)


0 件のコメント:

コメントを投稿