2009-07-04

ロッシーニ「スタバート・マーテル」について

「スタバート・マーテル」は、カトリック教会における「悲しみの聖母の記念日(9月15日)」のミサにおいて、続唱(セクエンツィア)として用いられている聖歌です。
詩は、イエスキリストの受難に際して聖母マリアが受けた悲しみ苦しみを表す20節からなる3行詩になっており、13世紀にイタリアの修道士兼宗教詩 人であったジャコポーネ・ダ・トーディ(Jacopone da Todi : 1220-1306)によって書かれたと伝えられています。

「スタバート・マーテル」という曲名は、日本では「悲しみの聖母」と訳されることが多いですが、「スタバート・マーテル」という言葉は英語なら Standing Motherと同意であり、「聖母は佇みたもう」という意味にしかなりません。歌詞の冒頭部分のStabat Mater に続くdolorosaという単語が加わってはじめて「悲しみにくれる聖母は佇みたもう」という意味となります。
ジュキアーノ・ロッシーニ(Gioachino Rossini :1792-1868)は19世紀イタリアにおいて、「セビリアの理髪師」や「ウィリアム・テル」などのオペラを作曲したの音楽家として有名ですが、44 歳の時(1836年)に音楽界から引退し、その後は美食家としてレストランの経営などをおこなっていたそうです。(引退後も宗教曲などの作曲は続けていた ようですが)
「スタバート・マーテル」は、1831年にスペインの有力者から依頼され、私的な利用のみで出版を行わないことを前提にして作曲を引き受けたのです が、あまり気乗りしていなかったうえに腰痛などの健康上の理由から、全12曲という最初の構想に対して1曲目及び5~9曲目の6曲だけしか完成することが できず、残りの部分をボローニャの作曲家であるジョバンニ タドリーニ(Giovanni Tadolini : 1789-1872) に任せてしまいました。 ところが1837年に依頼人が没した時、この楽譜が出版社に売り払われてしまいました。この事を知ったロッシーニは、他人に任せたものが含まれたままで世 に出ることをいやがり、1841年に自分で作曲をしなおす事によって全10曲として完成させ、1842年1月7日にパリのイタリア劇場で初演されました。 この「スタバート・マーテル」は、その年のうちに29回も再演されるという大きな成功をおさめました。
ロッシーニの作曲による「スタバート・マーテル」は、

 1. Introduzione - 四重唱&合唱 (第1節)
 2. Aria - テノールアリア (第2~4節)
 3. Duetto - ソプラノ/メゾソプラノ二重唱 (第5~6節)
 4. Aria - バスアリア (第7~8節)
 5. Coro e Recirativo - 無伴奏合唱&バスレシタティーボ (第9~10節)
 6. Quartetto - 四重唱 (第11~15節)
 7. Cavatina - メゾソプラノカバティーナ (第16~17節)
 8. Aria e Coro - ソプラノアリア&合唱 (第18~19節)
 9. Quartetto - 無伴奏四重唱(合唱の場合も) (第20節)
10.Finale - 合唱 (Amen)
の全10曲から成っており、今回の演奏会では合唱曲として1、5、8、9、10曲目の全5曲を演奏します。
「悲しみの聖母」という曲名のとおり悲哀に満ちた歌詞のため、他の作曲家による「スタバート・マーテル」は、厳かに聖母の悲嘆を表現している曲が多 いのですが、ロッシーニによる「スタバート・マーテル」は、オペラのアリアを彷彿させる曲など、とてもドラマチックな作品となっています。
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(2009年12月21日 松戸市民コンサート の合唱団向け曲目解説 配布資料)

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